譜面の準備
録音の準備の工程大切なものの一つに譜面の準備が挙げられる。まず
1. 奏者
2. ディレクター
3. エンジニア
分の部数が必要であり(2. と 3. は兼任である事がある)、この他に、スコアチェッカー(譜面チェッカー)、アドバイザー、プロデューサー、調律師も眺める様なことがあれば、事前に確認をとり準備をする必要がある。
さらに、制作に於いて譜面は、オーケストラのライブラリーのように資産的な発想ではなく、それよりも消耗品的な発想になり、多くの書き込みを行い、制作終了時に処分される場合もあるという事が前提となる。
私の場合まだ「紙」ベースで運用を行なっている。これまで2度ほどiPadを導入したが、結果的に定着せず、長きにわたる運用に至らなかった点と、様々なデバイスを管理しなければならない役割分担上、充電、可搬、データ、アップルペンシル、ペン先。これらを管理するためにリソースを割くことは不合理で、また、長時間ペンを握ることになるので、気に入った文房具を握りしてめていたいということもあり、この様な運用体制に至っている。
いかに譜面が準備されるべきかという点では
1. 書き込みが可能で返却の必要がないものが必要部数用意されているか
2. なるべくなら書き込みのない「サラ」な状態のものが用意されているか
3. ディレクター、エンジニア、奏者側全ての役割で全てエディションが揃っているか
4. 全ての役割で小節番号が共有できる様になっているか(小節番号のない譜面の場合付番)
5. トラックタイトルが生成され、対するM番号が付番されているか(M1, M2のように)
6. タイムテーブルが生成され、曲順に並んでいるか
7. 各曲、可能であれば全ての用紙にインデックス(トラックタイトルとM番号)が振られているか
8. 古楽や純クラシック以外のジャンルの比較的シンプルな譜面の場合、構成が補足されているか
9. 主に声楽、テキストが伴う場合。全てのテキストが掲載されていてディレクションできる状態になっているか
10. バラバラにならない様に適切に製本、もしくはファイリングされているか
加え録音中の譜めくりに対する準備が必要になる事がある。
基本的には『出た音(ノイズ)は拾われている』摂理に従って備えるべきで、そもそも『出ない』ように工夫すべきであるが、多くの場合出るのであれば『譜めくり用のテイクをテイクする』事で解決する場合が多く、同じテクニックが、オルガンやチェンバロのストップ・レジストリの切り替え、楽器の持ち替え、曲間などに用いられる。
【備考】
およそ譜面が分配された時点、その精度でおよそリリースまでの雰囲気が読めてしまう。録音が始まってから足りない事が発覚し、コピー機に走ったり、バサバサページをめくったり、小節番号がコントロールルームと舞台で共有出来ないなどということは、論外で、ロクなアルバムに仕上がらない。
大学に入学した際、共演して頂く伴奏者にどのような伴奏譜をお渡しすべきか叩き込まれたものだが(当時は精神論か何かだと思っていたが)、全体的には通じるところがある。結論から考えればどの様な譜面を用意すべきかはすぐにわかるはずだが、結論は「より合理的かつ無駄のない」セッション、或いは制作を行いたいわけで、譜面を捌く時間は1秒単位で減らしたいわけである。秒単位というと大袈裟な様だが、実際我々エンジニアのセットアップの時間はこの様に計算されており、例えばこの箱を開けて取り出し、セットアップに何秒というようにマネジメントされており、結果的にこれらが積み重なり、毎回およそ2時間という決まった範囲内で、最大限のセットアップが可能となっている。これは、毎回2時間の基本調律をされている調律師とも通じるものがあり、毎日彼らの仕事を見ていると、時間内に「何ができるか」が精密に計算されている。その仕事ぶりをみるだけで、調律師の技量だけでなく、1日その楽器がどの様な状態に保たれるか、朝の時点で容易に想像がつくものである。